Marco の本棚

~紙の削減~ 著作権切れの名著

徳冨蘆花『寄生木』序

 

「寄生木」⒈  徳冨蘆花著 岩波文庫  1984/11..第4版    p.3

 

 正当にいえば、寄生木の著者は自分ではない。

 真の著者は、明治41年の9月に死んだ。陸中の人で、篠原良平という。

 明治36年の4月頃だったと覚えている、著者が青山原宿に住んでいた頃、ある日軍服の一壯漢 (そうかん) ( =元気盛んな男 ) が玄関に訪れた。どこの軍曹かと思ったら、士官学校生徒で、少しお願いがあると言う。率直の男らしく見えた。客間に請じて来意を問うと、恩人のために著作をして欲しいと言う。恩人というのは誰だと聞けば「大木 ( =乃木希典 ) 閣下であるます」と真四角に答える。大木の書生として陸軍中央幼年学校から士官学校に入るまで世話になっているそうな。(しか)して幼年学校入学の際は、優等第三席で入ったが、出る時はビリっこけでした、と吐き出すように言った。で、何とかして大木閣下のの自身に対する恩義について世にも知らせ、また自身の恥辱を(すすぎ)ぎたく、それについて何か回想録のようなものを書くから、それを基礎として一篇の小説を書いてくれ、と言う。とにかく書いたものを寄こしてみよ、大木さんは僕も好きだ、ゴルドン将軍型の人だと思う、と言って自著「ゴルドン将軍伝」を一冊やった。